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二十四節気の記録の調査
政府の歴要項のページで閲覧できる資料から、二十四節気の記録を調べた。
一般事項
- 二十四節気は、暦とは別に季節を表す区分として、ずっと昔に中国で考案されたもので、天球上の太陽の通り道である黄道(こうどう)を24等分したもの。春分を起点として15度ずつの角度で二十四節気が配置される。
- 節気というのは、天文学的にはその時点を指すが、一般的には節気の入(い)りの日から次の節気の入りの日の前日までの期間の意味もある。
- 春分・秋分のことを二分(にぶん)と言い、夏至・冬至のことを二至(にし)と言い、合わせて二至二分(にしにぶん)と言う。立春・立夏・立秋・立冬を四立(しりゅう)と言う。そして、二至二分と四立を合わせて八節(はっせつ)と言う。
- 夏至は最も昼が長く、冬至は最も昼が短く、春分と秋分は昼と夜が同じくらいだ。
- 春分回帰年、夏至回帰年、秋分回帰年、冬至回帰年の平均を平均回帰年と言う。
二十四節気の一覧
角度 | 節気 | 読み方 | 暦便覧より |
285 | 小寒 | しょうかん | 冬至より一陽起こる故に陰気に逆らふ故、益々冷える也 |
300 | 大寒 | だいかん | 冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也 |
315 | 立春 | りっしゅん | 春の気立つを以って也 |
330 | 雨水 | うすい | 陽気地上に発し、雪氷とけて雨水となればなり |
345 | 啓蟄 | けいちつ | 陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出ればなり |
0 | 春分 | しゅんぶん | 日天の中を行て昼夜とうぶんの時なり |
15 | 清明 | せいめい | 万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり |
30 | 穀雨 | こくう | 春雨降りて百穀を生化すればなり |
45 | 立夏 | りっか | 夏の立つがゆへ也 |
60 | 小満 | しょうまん | 万物盈満(えいまん)すれば草木枝葉繁る |
75 | 芒種 | ぼうしゅ | 芒(のぎ)ある穀類、稼種する時なり |
90 | 夏至 | げし | 陽熱至極しまた、日の長きのいたりなるを以てなり |
105 | 小暑 | しょうしょ | 大暑来れる前なればなり |
120 | 大暑 | たいしょ | 暑気いたりつまりたるゆえんなればなり |
135 | 立秋 | りっしゅう | 初めて秋の気立つがゆゑなれば也 |
150 | 処暑 | しょしょ | 陽気とどまりて、初めて退きやまむとすれば也 |
165 | 白露 | はくろ | 陰気やうやく重りて、露にごりて白色となれば也 |
180 | 秋分 | しゅうぶん | 陰陽の中分なれば也 |
195 | 寒露 | かんろ | 陰寒の気に合つて露結び凝らんとすれば也 |
210 | 霜降 | そうこう | 露が陰気に結ばれて霜となりて降るゆゑ也 |
225 | 立冬 | りっとう | 冬の気立ち始めて、いよいよ冷ゆれば也 |
240 | 小雪 | しょうせつ | 冷ゆるが故に雨も雪と也てくだるが故也 |
255 | 大雪 | たいせつ | 雪いよいよ降り重ねる折からなれば也 |
270 | 冬至 | とうじ | 日南の限りを行て、日の短きの至りなれば也 |
予備知識
- 政府が暦要項を公表しているのは1955年からで、それ以前の資料の多くは収集されたものらしい。そう言えば昔は寺社が暦の本を発行していたと思う。実物を見たことはないが、明治元年(慶応4年)の暦の本には「伊勢内宮」と書かれている。
- 歴要項や暦の本に記載されているのは、翌年の予測であって、観測した値ではない。ただし、その予測はかなり正確なようだ。
- グレゴリオ暦が採用されたのは明治5年(1872年)で、暦の本では明治6年(1873)からグレゴリオ暦で記載されている。古い暦では比較しようもないので、明治6年(1873)以降の資料を使用した。
- 1874~1886年の記録では、秒まで記載されていた。それで秒までデータを取ることにしたが、それ以後、秒は記載されなかった。記載されなかった秒を30秒と仮定して計算に供した。
- 1923~1944年の記録には、二至二分しか記載されていない。
- 1947、1949、1953、1954年の記録はない。
- データの精度からすると影響ないかと思うが、閏秒を反映させた。閏秒は1972年から2017年の間に、合計27秒挿入された。
- 東経135度の時刻を標準時とする法令が制定され、1888年1月1日から適用されたが、この時にずれた時間については、インターネットの検索では資料を見つけられなかったため、データを分析して-1009秒(-16分49秒)と推測し、1888年1月1日より前のデータを補正して使用した。
わかったこと
1907年の夏至の入りは早く、平均回帰年も短くなっているが、前後の状況から察すると記載ミスだろう。グラフでは一番目立つが、たぶん大したことではないと思う。
上下にぶれているところもあるが、平均的にはあまり変わりがないように見える。
節気の期間は、夏至のときに長く、冬至のときに短い、きれいな正弦波のようなグラフになった。二十四節気をそういうふうに配置したということで、たぶん理屈通りなのだろう。
春分回帰年より秋分回帰年のほうが短い傾向とは知っていたが、すべての節気を調べてみると、回帰年は夏に短く冬に長くなる傾向がある。そうは言っても、その差は最大でもわずか2分足らずだ。365日のうちの2分なんてゴミみたいなものだろうと思うが、こうして統計を取ってグラフにしてみると違いは明らかで、その2分足らずの差を検出できるデータの精度に驚いた。
各節気の回帰年(平均値)をみるとキザキザで妙な感じだが、回帰直線を計算して、回帰年に相当するであろうその傾きを重ねてみたところ、わかりやすくなって納得した。たぶん回帰直線の傾きのほうが真に近いだろう。
回帰直線の傾きは、小寒が最も大きく、小暑が最も小さく、それらの中間に清明と寒露があり、だいたい同じくらいの傾きだ。グラフの形は節気の期間と上下を反転させたような格好だが、1節気ずれている。
二至二分の回帰直線との差をグラフにした。回帰直線は節気ごとに異なるので、なかなかの暴挙だと思うが、そっと棚に上げておこう。回帰年が例年より何日長いか、その傾向を表している。周期的に波打っていて、正弦波のようだ。あてはめてみると、約18.6年周期で±7分ぐらい増減しているらしいとわかった。ただし、見てわかるように細かい上下動が多く、係数を少し大きくしたり小さくしたりしてもあてはまってしまうため、あまり信頼できる数値ではない。
二至二分以外は記録の欠落しているところが多いので二至二分の記録を使用したが、意図的に1907年の夏至を外してあり、他にも記録の欠落している年がある。
考察
回帰年の平均値
fig.3の節気の回帰年のグラフを奇妙に思い、どうしてギザギザになってしまうのか考えてみた。ある年の回帰年が例年より長ければ、その分だけ翌年の回帰年は短くなりやすい傾向がある。時間がつながっているからだろう。回帰年は長いのと短いのが交互にやってくることが多い。
考えてみると回帰年の平均値は、最初と最後の日時の差を年数で割るのと同じなので、途中の日時の影響はなく、最初の日時である程度決まってしまう。
最初の日時が例年より早ければ回帰年の平均値は長くなりやすく、遅ければ短くなりやすい。最初の日時の誤差が延々と回帰年の平均値に影響して、同じようなギザギザになりやすいということ。節気の回帰年のグラフがギザギザになってしまうのは、そういうことなのだろう。この場合、平均値を使うのは、適切ではないと思う。
節気の回帰年から考えられること
「春分の計算・秋分の計算」でも書いたが、季節によって回帰年の長さが異なるのは大変興味深い。地球は楕円の軌道を描いて太陽の周りを回っているはずだが、その楕円軌道が少しずつずれていっているのかもしれない。
天体の楕円軌道の長径の向きが回転する現象を「近点移動」といい、中心天体が太陽のときは「近日点移動」というそうだ。地球は11.45秒/年。Wikipediaに載っていた。想像はだいたい当たっていたが、何となく気持ちが冷めてしまうのは、なぜなのだろう。
約1年周期で増減がある理由はわかったが、さらに約18.6年周期の増減もあるようだ。どうして回帰年にこのような変化が起きるのか、ちょっと想像できない。
あてずっぽうだが、数値だけを見ると月に関係があるような気がする。太陽の通り道である黄道(こうどう)と月の通り道である白道(はくどう)が交わるふたつの交点は、黄道に沿って西向きに移動していて、それらが1周して元の位置に戻るまでの周期(対恒星交点逆行周期)が18.6年だそうだ。
でも、月と地球は仲良く一緒に太陽の周りをまわっているので、月の動きがこんなふうに地球の回帰年に影響するとは考え難い。むしろ、約18.6年周期で月の動きに影響を及ぼす何かが、地球の回帰年にも影響しているのかと考えるほうが自然だろうか。
-追記-
国立天文台のサイトにいろいろ詳しく載っていた。18.6年周期の増減は「章動」という現象の影響らしい。章動は「歳差」と似ているが、太陽や月や他の惑星との位置関係が刻々と変化するにつれて、より短い周期で地球の自転軸の向きが微小に変化する現象で、なかでも月の影響は大きく、月の昇交点が18.6年周期で黄道上を1周することで引き起こされるとのこと。
月と地球は互いに引きつけ合っているので、月の軌道の変化によって月に引っ張られる方向が変わり、そのために地球の自転軸の向きがずれるのだろうと思う。
また、グラフに微細なギザギザがあるのは単に予測の誤差だろうと思っていたが、そうではないらしい。地球の公転は、惑星間の引力によって複雑に影響を受けているそうだ。他の惑星にだって近日点移動はあるだろうし、惑星同士が互いの公転に影響を及ぼしあっているのも同様のはずで、そのような複雑な動きから生じる影響はカオス的でまったく予測不能・・・と思いたいが、実際にすべて計算して予測されている。私にはまったく追いつけそうにないが、人類恐るべし。
平均回帰年について
二至二分の回帰年が約18.6年周期で変化するなら、平均回帰年も約18.6年周期で変化しているのではなかろうか。平均回帰年の推移をよく見れば、わずかに波打っているように見える。
グラフからはほとんど傾きをとらえられないが、Wikipediaによると平均回帰年は、少しずつ短くなっていると考えられている。私の使用したのは歴要項や暦の本に記載された予測で、記載されていない秒を30秒にしてしまったりしたし、やはり無理があったかな。
回帰年の模式図
データをグラフにすると細かい上下動がたくさんあって分かりづらいが、節気の回帰直線の傾き(fig.3)や回帰直線との差(fig.4)などを考慮して模式的に示すと、回帰年の推移は約1年周期の小さな波と、約18.6年周期の大きな波を合わせたような感じだと思う。
経過日数のグラフ
別の角度から見てみようと思い、各節気の日時における、理論上の西暦1年1月1日0時0分からの経過日数をグラフにした。横軸は年+節気だが、1節気あたり24分の1回転として、“西暦0年の小寒からの回転数”と考えるほうがわかりやすいかもしれない。
そのままグラフにしてもただの直線にしか見えないので、適当に近似曲線のモデルを当てはめて、その中心線との差を示すことにした。近似曲線のモデルは、中心線に約18.6年周期の波と約1年周期の波を合わせたもの。fig.10からfig.12は同じグラフで、表示範囲だけを変えてある。
全体的に安定した正弦波のように見えるが、よく見ると各節気が少しずつ移動していることに気づくだろう。節気の訪れる周期と波の周期が微妙に合っていない。近似曲線の係数から推測すると、およそ20994年でひとまわりして元の位置に戻ることになる。地球の歳差運動の影響かもしれない。
このグラフによれば、節気の訪れる周期と波の周期との微妙な差によって、回帰年は、波の極大から極小の間(下り)にある節気では長く、中心線付近で最大になり、極小から極大の間(上り)にある節気では短く、やはり中心線付近で最小になる。また、極小付近と極大付近では回帰年の変化が少なく、中心線付近でも回帰年の変化は少ないと思う。
トータルではプラスマイナス0であろうと容易に想像できるが、節気の訪れる周期と波の周期との微妙な差のため、二十四節気は波の上で正確に対称的な配置にはならないはずなので、一回転ごとに区切ると、回帰年が長くなる節気と短くなる節気との間でわずかな差が生じるのではないかと思う。平均回帰年が少しずつ短くなっていると言われるのは、そういうことかなと思った。
平均回帰年は周期的に変化しているので指標として簡便だと思うが、回帰年の標準は中心線の傾きと考えたほうが良さそうだ。この近似曲線のモデルでは365.2421997741183だった。
反復回帰で調べたので、近似曲線の係数の値を探すのに苦労した。その甲斐あって、かなり近いところまで迫れたと思う。
あとがき
歴要項や暦の本の二十四節気の記録は非常に精密だった。おかげで入力ミスを簡単に見つけられたので、助かった。歴要項や暦の本に記載されているのは発行の翌年の暦なので、きっと観測したデータから誰かが二十四節気の日時を計算して予測したのだろうなと思った。暦の本には二十四節気の他にもたくさんのことが書かれていて、それらを全部計算したのかと思うと気が遠くなりそうだ。
それにしても暦便覧の説明はゆるい。小暑は特にいい加減だなって感じだ。
(2018/12/01 初稿)
(2018/12/04 更新)
(2018/12/15 更新)
(2018/12/18 更新)
(2018/12/29 更新)